見込み捜査
見込み捜査とは
「見込み捜査」とは、特定の人物を犯人であると「見込み」、その仮説を裏付ける証拠だけを収集し、矛盾する証拠や代替的な仮説を無視・軽視する捜査手法を指す。認知心理学では「確証バイアス」や「トンネル・ビジョン」と呼ばれる認知の歪みと密接に関連している。
松本サリン事件
1994年の松本サリン事件では、第一通報者であり自身も被害者であった河野義行氏が犯人として疑われた。自宅の強制捜索、メディアによる犯人視報道、長期にわたる嫌疑が、後にオウム真理教の犯行と判明するまで続いた。「通報者=犯人」という見込みから出発した捜査の典型例である。
確証バイアス
人間は、自分の仮説に合致する情報を選択的に集め、矛盾する情報を無視する傾向がある。これは捜査官も例外ではない。一度「この人が犯人だ」と思い込むと、その仮説を否定する証拠(アリバイ、DNA不一致、靴のサイズの不一致等)が目に入らなくなる。
氷見事件では、現場の足跡のサイズ(28cm)と被疑者の足のサイズ(24.5cm)が一致しないという明白な矛盾が無視された。
対策
見込み捜査を防ぐには、捜査の初期段階で複数の仮説を並行して検討する手法(「デビルズ・アドボケイト」等)が有効とされている。西愛礼氏の「冤罪学」では、「黒の捜査(犯人を追う捜査)」だけでなく「白の捜査(無実の可能性を検証する捜査)」の重要性が指摘されている。
用語解説
確証バイアス自分の仮説に合う情報だけを集め、矛盾する情報を無視する認知的傾向
トンネル・ビジョン視野が狭くなり、一つの仮説に固執してしまう状態。見込み捜査の心理的メカニズム
該当事件
関連書籍
えん罪・氷見事件を深読みする— 前田裕司・奥村回 編 (2016)
不当逮捕 築地警察交通取締りの罠— 林克明 (2017)
冤罪学— 西愛礼 (2023)
警察官ネコババ事件 ―おなかの赤ちゃんが助けてくれた— 読売新聞大阪社会部 (1989)
冤罪— 西愛礼 (2024)
負けへんで!— 山岸忍 (2023)
違法捜査と冤罪— 木谷明 (2024)
冤罪と人類— 管賀江留郎 (2021)
殺人犯はそこにいる— 清水潔 (2013)
〈冤罪〉のつくり方 大分・女子短大生殺人事件— 小林道雄 (1996)
制度改革の動向
複数仮説の並行検討、捜査段階でのチェック機能の導入が議論されている。