トクリュウ誤認定事件(島根県警・出し子誤認)
匿名(40代男性、西日本在住の会社員)
西日本の地方都市に住む会社員男性(40歳)は、個人間で暗号資産を売買する正当な「相対取引」を行っていたが、2025年5月上旬、突然銀行口座を凍結された。銀行に問い合わせると「不正な取引に使われた可能性がある」と告げられ、凍結を求めたのが島根県警だと分かった。県警に事情を尋ねたところ、島根県内の女性が警察官をかたる人物に200万円をだまし取られた特殊詐欺事件の「出し子」の疑いをかけられていることが判明した。男性は島根県には足を踏み入れたことがないと説明したが、任意の事情聴取で6時間拘束され、金を下ろそうとしたATMにまで連れて行かれたうえ、「今から令状を持ってきて逮捕に切り替えてもいいんだぞ」などと迫られた。
ある朝、警察官が逮捕状を持って自宅を訪れ、家宅捜索の上、島根県内の警察署に連行された。取調室では腰縄をつけられた状態で自白を執拗に迫られ、担当刑事から机をたたかれ暴言を吐かれるなどしたとされる。調書についても「ほぼほぼ警察官の作文」だったとして署名を拒んだところ、強い剣幕で翻意を迫られたという。勾留期間中は接見禁止の措置が付され、23日間にわたり外部から遮断された。弁護士に渡された被疑者ノートには「私はしてないことはしていません」「決めつけや臆測の話が多いと感じる」との記述が残る。
自白を得られなかったことから検察は起訴を断念し、男性は勾留期限いっぱいで処分保留により釈放された。県警からの謝罪は一切なかった。刑事処分の最終判断は福井地検に委ねられ、同地検が不起訴処分を決定したのは2026年6月1日で、逮捕から1年以上が経過していた。
本件でとりわけ深刻な被害をもたらしたのが、NHK松江放送局による実名報道である。逮捕直後の2025年6月5日午後、同局は男性の実名を挙げて逮捕を報じ、「松江 警察官かたり200万円詐取か 会社員逮捕 容疑を否認」の見出しでウェブニュースを配信した(現在は削除)。記事の末尾には「警察は、SNSで実行役を集め、さまざまな犯罪を繰り返すトクリュウの実行役だとみて調べています」と付け加えられていた。男性は、NHKが自分を「詐欺グループの一味」と報じたと述べている。情報源は「警察によると」とされ、記者クラブを通じた警察発表への依存が指摘されている。この報道は地元で急速に拡散し、男性は勤務先を解雇された。妊娠していた婚約者との関係も破綻し、婚約者は堕胎を決意したという。
元東京高検検事で弁護人を務めた阪井光平弁護士は、男性の暗号資産の相対取引は正当なものであり、男性は詐欺グループに自分の銀行口座を悪用された被害者だと指摘。「そもそも犯罪者が自分名義の口座を使うことに疑問を持たなかったのか」と捜査の基礎的な能力不足を批判した。また、各都道府県公安委員会が認定する指定暴力団と異なり「トクリュウ」は組織としての実態が希薄で認定基準がブラックボックスになっているとして、「警察によって恣意的に認定される可能性があり、誰もがその被害に遭う恐れがある」と警鐘を鳴らしている。
取材に対しNHK広報局は、逮捕時の報道は「捜査状況をお伝えした」ものとし、不起訴処分を受けて「名誉回復を図る必要があると認識し」不起訴となった旨を報じたと文書で回答した。島根県警の捜査員は、捜査は「適正に行なった」としつつ、トクリュウ認定に至った明確な根拠は示さず、男性が受けた被害への見解は「コメントする立場にない」として回答を控えた。
本件は、警察庁が摘発を強化する「トクリュウ」という新しい犯罪類型の認定基準が不透明であること、そしてその不透明な認定が記者クラブ制度に依存した実名報道と結びついたとき、無関係の市民の人生を一夜にして破壊しうることを示す事例である。
西日本の地方都市に住む会社員男性(40歳)は、個人間で暗号資産を売買する正当な「相対取引」を行っていたが、2025年5月上旬、突然銀行口座を凍結された。銀行に問い合わせると「不正な取引に使われた可能性がある」と告げられ、凍結を求めたのが島根県警だと分かった。県警に事情を尋ねたところ、島根県内の女性が警察官をかたる人物に200万円をだまし取られた特殊詐欺事件の「出し子」の疑いをかけられていることが判明した。男性は島根県には足を踏み入れたことがないと説明したが、任意の事情聴取で6時間拘束され、金を下ろそうとしたATMにまで連れて行かれたうえ、「今から令状を持ってきて逮捕に切り替えてもいいんだぞ」などと迫られた。 ある朝、警察官が逮捕状を持って自宅を訪れ、家宅捜索の上、島根県内の警察署に連行された。取調室では腰縄をつけられた状態で自白を執拗に迫られ、担当刑事から机をたたかれ暴言を吐かれるなどしたとされる。調書についても「ほぼほぼ警察官の作文」だったとして署名を拒んだところ、強い剣幕で翻意を迫られたという。勾留期間中は接見禁止の措置が付され、23日間にわたり外部から遮断された。弁護士に渡された被疑者ノートには「私はしてないことはしていません」「決めつけや臆測の話が多いと感じる」との記述が残る。 自白を得られなかったことから検察は起訴を断念し、男性は勾留期限いっぱいで処分保留により釈放された。県警からの謝罪は一切なかった。刑事処分の最終判断は福井地検に委ねられ、同地検が不起訴処分を決定したのは2026年6月1日で、逮捕から1年以上が経過していた。 本件でとりわけ深刻な被害をもたらしたのが、NHK松江放送局による実名報道である。逮捕直後の2025年6月5日午後、同局は男性の実名を挙げて逮捕を報じ、「松江 警察官かたり200万円詐取か 会社員逮捕 容疑を否認」の見出しでウェブニュースを配信した(現在は削除)。記事の末尾には「警察は、SNSで実行役を集め、さまざまな犯罪を繰り返すトクリュウの実行役だとみて調べています」と付け加えられていた。男性は、NHKが自分を「詐欺グループの一味」と報じたと述べている。情報源は「警察によると」とされ、記者クラブを通じた警察発表への依存が指摘されている。この報道は地元で急速に拡散し、男性は勤務先を解雇された。妊娠していた婚約者との関係も破綻し、婚約者は堕胎を決意したという。 元東京高検検事で弁護人を務めた阪井光平弁護士は、男性の暗号資産の相対取引は正当なものであり、男性は詐欺グループに自分の銀行口座を悪用された被害者だと指摘。「そもそも犯罪者が自分名義の口座を使うことに疑問を持たなかったのか」と捜査の基礎的な能力不足を批判した。また、各都道府県公安委員会が認定する指定暴力団と異なり「トクリュウ」は組織としての実態が希薄で認定基準がブラックボックスになっているとして、「警察によって恣意的に認定される可能性があり、誰もがその被害に遭う恐れがある」と警鐘を鳴らしている。 取材に対しNHK広報局は、逮捕時の報道は「捜査状況をお伝えした」ものとし、不起訴処分を受けて「名誉回復を図る必要があると認識し」不起訴となった旨を報じたと文書で回答した。島根県警の捜査員は、捜査は「適正に行なった」としつつ、トクリュウ認定に至った明確な根拠は示さず、男性が受けた被害への見解は「コメントする立場にない」として回答を控えた。 本件は、警察庁が摘発を強化する「トクリュウ」という新しい犯罪類型の認定基準が不透明であること、そしてその不透明な認定が記者クラブ制度に依存した実名報道と結びついたとき、無関係の市民の人生を一夜にして破壊しうることを示す事例である。
- 事件発生
- 2025年
- 被告人
- 匿名(40代男性、西日本在住の会社員)
- 判決
- 特殊詐欺の出し子容疑で逮捕 → 23日間の接見禁止勾留 → 検察が起訴を断念、処分保留で釈放 → 福井地検が不起訴処分(2026年6月1日)。起訴・公判には至らなかった。
- 現在のステータス
- 不起訴
- 冤罪の原因
- 犯人視報道、見込み捜査、人質司法
タイムライン
個人間の暗号資産相対取引を行っていた男性の銀行口座が突然凍結された。銀行から「不正な取引に使われた可能性がある」と告げられ、凍結を求めたのが島根県警だと判明。県警に問い合わせたところ、島根県内の特殊詐欺事件(警察官をかたり200万円詐取)の出し子容疑をかけられていることが分かった。
自宅近くの警察署で任意の事情聴取を受け、6時間拘束された。現金を下ろそうとしたATMにも連れて行かれ、「本当のことを言え」「今から令状を持ってきて逮捕に切り替えてもいいんだぞ」などと迫られた。
ある朝、警察官が逮捕状を持って自宅を訪問。家宅捜索の上、島根県内の警察署に連行された。取調室では腰縄をつけた状態で自白を迫られ、担当刑事が机をたたいて暴言を吐いたとされる。
NHK松江放送局が男性の実名を挙げて逮捕を報じ、末尾に「警察は、SNSで実行役を集め、さまざまな犯罪を繰り返すトクリュウの実行役だとみて調べています」と付記したウェブニュースを配信(現在は削除)。この報道が地元で拡散し、男性は勤務先を解雇された。
自白を得られなかった検察は起訴を断念し、勾留期限いっぱいで処分保留により釈放された。勾留期間中は23日間、接見禁止の措置が付されていた。県警からの謝罪はなかった。
刑事処分の最終判断を委ねられていた福井地検が、不起訴処分を決定した。逮捕から1年以上が経過していた。