1966年6月30日、静岡県清水市の味噌製造会社専務宅で一家4人が殺害され放火された事件。従業員で元プロボクサーの袴田巌が逮捕され、1日平均12時間にも及ぶ過酷な取調べにより自白を強要された。公判では一貫して無実を主張したが、事件から1年2か月後に味噌タンク内で「発見」された血痕付きの衣類(5点の衣類)が有罪の決め手とされ、1980年に死刑が確定した。
2014年、静岡地裁は「捜査機関が重要な証拠を捏造した可能性がある」として再審開始を決定し、47年7か月ぶりに袴田を釈放。その後の法廷闘争を経て、2024年9月26日に静岡地裁が再審無罪判決を言い渡した。判決は自白を「実質的に捏造」と認定し、5点の衣類についても捜査機関による「捏造」と断じた。検察の上訴権放棄により同年10月に無罪が確定。逮捕から58年、死刑確定から44年を経ての無罪確定は、戦後5件目の死刑再審無罪であり、日本の再審制度の不備と死刑制度の問題を象徴する事件となった。
1966年、味噌工場で一家4人が殺害。従業員の袴田巖が逮捕され死刑判決を受けたが、58年を経て2024年に無罪確定。裁判所は証拠捏造を認定。
- 事件発生
- 1966年
- 被告人
- 袴田 巖(はかまだ いわお)
- 判決
- 確定審:死刑 / 再審:無罪
- 現在のステータス
- 無罪確定
- 冤罪の原因
- 自白強要、証拠捏造、長時間の取調べ、代用監獄
- 支援
- 日本弁護士連合会
タイムライン
清水市の味噌製造会社専務宅で一家4人が殺害・放火される
8月18日、袴田巖が逮捕
強盗殺人・放火の罪で静岡地検が起訴
事件から約1年2ヶ月後、味噌タンク内から血液付着の5点の衣類が発見
9月11日、静岡地裁が死刑判決
5月18日、東京高裁が控訴を棄却
11月19日、最高裁が上告を棄却。12月12日に死刑確定
弁護団が静岡地裁に再審請求を申し立て
請求から13年を経て静岡地裁が棄却
棄却決定に対し東京高裁に即時抗告
東京高裁が即時抗告を棄却。地裁棄却から10年
最高裁が特別抗告を棄却。第1次再審請求は27年で完全に終了
姉・袴田ひで子を中心に静岡地裁に第2次再審請求
静岡地裁が再審開始を決定。死刑・拘置の執行を停止。47年7ヶ月ぶりに釈放
静岡地検が再審開始決定を不服として東京高裁に即時抗告
東京高裁が再審開始決定を取り消す。ただし袴田氏の釈放は維持
弁護団が東京高裁決定を不服として最高裁に特別抗告
最高裁第三小法廷が東京高裁決定を取り消し、東京高裁に差し戻す
東京高裁が再審開始を認め、検察官の即時抗告を棄却
検察が特別抗告を断念。2014年の再審開始決定から9年で確定
静岡地裁で再審公判が開始。袴田氏は出廷免除、姉ひで子が補佐人として出席
計15回の審理を経て結審。検察は死刑を求刑
静岡地裁が無罪判決を言い渡す
畝本直美検事総長が上訴権放棄を表明。無罪判決が確定
畝本直美検事総長が控訴断念にあたり談話を発表。「判決には到底承服できず控訴すべき内容」「ねつ造と断じたことには強い不満」と表明
津田隆好静岡県警本部長が袴田巖氏に直接謝罪
静岡地裁が刑事補償法に基づき、47年7ヶ月の身体拘束に対して約2億1700万円の交付を決定
畝本直美検事総長の談話が袴田氏の名誉を傷つけたとして、国に損害賠償を求める訴訟が提起されたとの報道あり
弁護団が国と静岡県を相手に約6億円の国家賠償請求訴訟を静岡地裁に提起
事件に関わる言葉
裁判官・当事者・家族・支援者・訴追機関などによって記録・公表された発言のうち、 この事件の理解に重要なものを引用しています。
判決文より捜査機関によってねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ、極めて長期間死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた。無罪の蓋然性が相当程度あることが明らかになった現在、これ以上、袴田に対する拘置を続けることは耐え難いほど正義に反する
第二次再審請求における再審開始決定。同時に死刑および拘置の執行停止を認めた判示。
出典:静岡地裁平成26年3月27日決定 原文を読む ↗
ご家族の声より50年で駄目なら100年戦うという気持ちでおりました
2018年6月、東京高裁が第二次再審開始決定を取り消した際の心境を、後年のインタビューで述懐したもの。
出典:東京弁護士会「LIBRA Vol.25 No.5 2025/5 INTERVIEW:袴田ひで子さん 第39回東京弁護士会人権賞 受賞」 2025-05-01 原文を読む ↗
検察より本判決が「5点の衣類」を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません…到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容である
再審無罪判決(2024年9月26日)に対する控訴断念を発表した検事総長談話からの省略引用。判決への強い不満と「到底承服できない」との評価を示す部分を抜粋。同談話は、袴田氏の長期間の法的地位不安定を理由に控訴を断念すると表明した一方で、判決内容には強く反発する内容であり、後に名誉毀損として国家賠償請求訴訟の対象となった。
出典:最高検察庁「検事総長談話(令和6年10月8日付)」 2024-10-08 原文を読む ↗
参考リンク
参考文献
袴田事件で死刑判決を書いた裁判官・熊本典道の苦悩と後年の告白を描いたノンフィクション。
Amazonで見る ↗湖東記念病院事件の再審無罪確定を巻頭特集。あずみの里事件・袴田事件・SBS事件・今市事件・乳腺外科医事件など通常審の注目事件も収録。燦燈出版。
Amazonで見る ↗袴田事件(最高裁差戻し)と布川事件(国賠勝訴)を巻頭特集。甲山事件・小石川事件・天竜林業高校事件・倉敷民商事件・和歌山毒カレー事件なども収録。燦燈出版。
Amazonで見る ↗名張事件と大崎事件第4次再審を巻頭特集。北海道庁爆破事件・狭山事件・飯塚事件・Coinhive事件・大川原化工機事件・天竜林業高校事件なども収録。燦燈出版。
Amazonで見る ↗袴田事件の再審開始決定と日野町事件を巻頭特集。鶴見事件・福井女子中学生殺人事件・今西事件・菊池事件・講談社元社員事件・弘前大学教授夫人殺し事件なども収録。燦燈出版。
Amazonで見る ↗袴田事件再審無罪判決と再審法改正を巻頭特集。三鷹事件・狭山事件・福井女子中学生殺人事件・日野町事件・大崎事件・プレサンス元社長事件・今市事件なども収録。燦燈出版。
Amazonで見る ↗白鳥決定50年を巻頭特集。福井女子中学生殺人事件の再審無罪判決、狭山事件・今西事件・神戸質店事件・姫路郵便局強盗事件・松橋事件国賠訴訟なども収録。燦燈出版。
Amazonで見る ↗袴田巖さんが2014年に確定死刑囚のまま釈放されてから10年、密着取材を続けたジャーナリストによる長期取材ノンフィクション。支え続けた姉・ひで子さんの献身、死刑判決を書いた元裁判官・熊本典道の告白と謝罪、「五点の衣類」をめぐる証拠捏造の疑い、東京拘置所の独房で「全知全能の神」と語るに至った拘禁症状、再審開始決定の取り消しから最高裁差戻しを経て2024年9月26日の再審無罪に至る経緯までを描く。著者は2006年から袴田事件の取材を始め、2015年から2年間は浜松に居を移し袴田さん自宅近所で密着取材を続けた。
Amazonで見る ↗静岡地裁の再審開始決定から2018年6月の東京高裁による再審請求棄却までの経過を追い、捜査や裁判の問題点を検証。違法取調べ、自白強要、証拠偽造など再審請求審で浮かび上がった問題を論じる。
Amazonで見る ↗袴田事件の第2次再審請求から2024年9月の再審無罪判決までの経過を丁寧に追った書籍。再審法の不備や死刑冤罪が現代に提起する教訓を浮き彫りにする。小石勝朗による袴田事件関連書の続編。
Amazonで検索 ↗心理学者・浜田寿美男による袴田事件の自白の供述分析。自白の心理学的検証から無実を証明する手法を論じる。
Amazonで見る ↗ルポライター鎌田慧による冤罪事件の追跡ルポルタージュ集。鎌田慧セレクション第1巻。財田川事件の『死刑台からの生還』、狭山事件、袴田事件、福岡事件、三鷹事件、菊池事件などの論考を再編集して収録。冤罪という権力犯罪の追及と雪冤運動との同伴を鎌田のライフワークとして位置づける。出版社は皓星社。
Amazonで見る ↗30年間テレビドキュメンタリーを制作してきた元MBS記者・里見繁が、現地取材やドキュメンタリー番組の放送をもとに9件の冤罪事件をルポ。布川事件、足利事件、飯塚事件、京浜急行・痴漢冤罪事件、袴田事件、日野町事件、福井・女子中学生殺人事件、浜松幼児せっかん死事件、大阪高槻市・選挙違反事件を収録。日本の司法制度の構造的欠陥から冤罪が生み出されると論じる。インパクト出版会刊。
Amazonで見る ↗免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件の四大死刑再審無罪事件の雪冤後の波乱の人生をたどり、再審開始が決定した袴田事件、無実を証明する前に処刑された飯塚事件を徹底検証する。冤罪そのものの構造と、雪冤の先に何があるのかを綴る。インパクト出版会刊。
Amazonで見る ↗再審無罪につながった証拠検証、とくに「みそ漬け実験」を中心に逆転の経緯をたどる前編。
NHKオンデマンド ↗前編に続き、裁判官の証言やDNA鑑定を軸に、袴田事件の最終局面を扱う完結編。
NHKオンデマンド ↗

















