チッソ川本事件
川本 輝夫(かわもと てるお)
1972年7月から10月にかけて、水俣病患者被害者支援団体の代表である川本輝夫氏が、東京・チッソ本社で社長との直接交渉を求めた際、阻止しようとするチッソ従業員らともみ合い、従業員4人に噛みついたり殴りかかったりして全治10日から2週間の怪我を負わせたとして、東京地検が同年12月27日に5件の傷害罪で起訴した事件。弁護側は公訴権の濫用に当たるとして公訴棄却を主張したが、1975年1月13日、東京地裁は5件全部を有罪としつつ、補償協定の成立や社長からの寛大処分の上申書等の情状を汲んで罰金5万円・執行猶予1年の判決。1977年6月14日、東京高裁は「水俣病の被害放置については行政・検察の怠慢が非難されてもやむを得ない」「チッソ側と患者側を対等とみることはできず、被告人らに多少の行き過ぎがあったとしても直ちに刑罰を科すのは妥当性を欠く」として一審を破棄し、公訴権濫用に当たるとして公訴棄却。1980年12月17日、最高裁第一小法廷(藤崎萬里裁判長)は5対2の多数決で、公訴権濫用は「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」とし本件はそれに当たらないとしつつ、「原判決を破棄して一審の執行猶予付き罰金刑を復活させなければ著しく正義に反するとは考えられない」として公訴棄却の結論を維持。団藤重光裁判官らが多数意見、藤崎萬里・本山亨裁判官が反対意見を付した。公訴権濫用論に関する最高裁の代表的判例(刑集第34巻7号672頁)。なお、水俣病の発生についてチッソ経営陣2人が業務上過失致死傷罪で起訴されたのは本件から4年後のことであった。
1972年7月から10月にかけて、水俣病患者被害者支援団体の代表である川本輝夫氏が、東京・チッソ本社で社長との直接交渉を求めた際、阻止しようとするチッソ従業員らともみ合い、従業員4人に噛みついたり殴りかかったりして全治10日から2週間の怪我を負わせたとして、東京地検が同年12月27日に5件の傷害罪で起訴した事件。弁護側は公訴権の濫用に当たるとして公訴棄却を主張したが、1975年1月13日、東京地裁は5件全部を有罪としつつ、補償協定の成立や社長からの寛大処分の上申書等の情状を汲んで罰金5万円・執行猶予1年の判決。1977年6月14日、東京高裁は「水俣病の被害放置については行政・検察の怠慢が非難されてもやむを得ない」「チッソ側と患者側を対等とみることはできず、被告人らに多少の行き過ぎがあったとしても直ちに刑罰を科すのは妥当性を欠く」として一審を破棄し、公訴権濫用に当たるとして公訴棄却。1980年12月17日、最高裁第一小法廷(藤崎萬里裁判長)は5対2の多数決で、公訴権濫用は「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」とし本件はそれに当たらないとしつつ、「原判決を破棄して一審の執行猶予付き罰金刑を復活させなければ著しく正義に反するとは考えられない」として公訴棄却の結論を維持。団藤重光裁判官らが多数意見、藤崎萬里・本山亨裁判官が反対意見を付した。公訴権濫用論に関する最高裁の代表的判例(刑集第34巻7号672頁)。なお、水俣病の発生についてチッソ経営陣2人が業務上過失致死傷罪で起訴されたのは本件から4年後のことであった。
- 事件発生
- 1972年
- 被告人
- 川本 輝夫(かわもと てるお)
- 判決
- 一審:罰金5万円・執行猶予1年(1975年1月13日、東京地裁) → 控訴審:公訴棄却(1977年6月14日、東京高裁) → 最高裁:原判決破棄せず公訴棄却維持(1980年12月17日)
- 現在のステータス
- 公訴棄却(不当な刑事手続)
- 冤罪の原因
- 検察の暴走、差別
タイムライン
水俣病患者被害者支援団体代表の川本輝夫氏が東京・チッソ本社で社長との直接交渉を求める。10月までの間、阻止しようとするチッソ従業員らとのもみ合いで従業員4人に全治10日から2週間の怪我を負わせる
東京地検が川本氏を5件の傷害罪で起訴
東京地裁が5件の公訴事実の全部を有罪としつつ、公訴提起後にチッソと患者側で補償協定が成立した点、社長からの寛大処分上申書等の情状を汲んで罰金5万円・執行猶予1年の判決
本件から4年後、水俣病の発生についてチッソ経営陣2人が業務上過失致死傷罪で起訴される(熊本水俣病事件)
東京高裁が一審の有罪判決を破棄し、公訴の提起が公訴権の濫用に当たるとして公訴棄却。「水俣病は公害史上最大のものといわれるが、この被害を放置したことについては行政、検察の怠慢が非難されてもやむを得ない」「チッソ側と患者側を対等なものとみることはできず、被告人らに多少の行き過ぎがあったとしても直ちに刑罰を科すのは妥当性を欠く」と判示
最高裁第一小法廷(藤崎萬里裁判長)が5対2の多数決で、公訴権濫用論については「公訴提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」として本件はそれに当たらないとしつつ、「原判決を破棄して一審の執行猶予付き罰金刑を復活させなければ著しく正義に反するとは考えられない」として公訴棄却の結論を維持。多数意見:団藤重光・中村治朗・谷口正孝。反対意見:藤崎萬里・本山亨(昭和52(あ)1353号、刑集第34巻7号672頁)