IP電話回線詐欺幇助事件(広島)
匿名(38歳男性、IP電話回線販売会社代表)
IP電話回線販売・レンタル業を営む東京の会社の代表社員(判決当時38歳の男性)は、2021年3月16日頃から同年4月20日頃までの間、氏名不詳者らにIP電話回線利用サービスを提供した。同年4月19日頃から翌20日頃、氏名不詳者らはこの回線を使って高齢の女性に電話をかけ、民事訴訟を回避するための弁済供託金等を支払う必要があるとの嘘を言って誤信させ、現金200万円を送付させてだまし取った。代表社員は、この詐欺に使われることを知りながら回線を提供して犯行を容易にしたとして、詐欺幇助罪で起訴された。
被告人の会社は氏名不詳者らに直接回線を提供したのではなく、間にW社を挟んでおり、そこから先の利用者を容易に追跡できない形で回線が渡っていた。公判では、被告人が回線提供にあたり、それが詐欺の道具として使われることを認識・認容していたかが争点となった。
2023年3月7日、広島地方裁判所(藤丸貴久裁判官)は無罪を言い渡した。判決は、被告人が詐欺への利用を知りながら提供を続けていたという捜査段階の供述について、裏付けを欠き身柄拘束中の罪悪感等の感情からされた可能性は否定し難いとして信用性を認めず、詐欺の犯人に回線を提供しているとは全く思わなかったとする公判供述の信用性は排斥できないとして、詐欺幇助の故意を有していたとまでは認められないと判断した。
検察官は「原判決は幇助犯の故意が認められる要件の規範定立について法令の解釈適用を誤った」として控訴した。検察側は、最高裁平成23年12月19日決定(Winny事件の最高裁決定)を引用し、価値中立的な行為による幇助犯を成立させるには、正犯行為に利用される一般的・抽象的な可能性の認識・認容では足りず、具体的な社会通念上無視できないような状況とその認識・認容が必要であって、かつそれで足りるとしたものだと主張。そのうえで、会社設立の経緯から被告人が抱いていたはずの疑念、特殊詐欺の社会問題化、警察からの警告や「詐欺」の文言を含む捜査関係事項照会書を度々受けていたこと、報酬が不相当に高額だったことなどを挙げて、故意は優に認められると論じた。
2024年2月13日、広島高等裁判所第1部(森浩史裁判長)は控訴を棄却した。同決定は基本的な解釈を示したうえで具体的な事案に則して判断したものであり、原判決も本件の提供状況等を踏まえて、他人の犯罪を容易ならしめる行為をそれと認識・認容しつつ行ったといえるのはどのような場合かを説示したにすぎないとして、原判決が刑法62条1項について従前と異なる独自の解釈をしているとはいえないとした。事実認定についても、被告人が上司格のBらの指示で業務に関与し始めたのが2020年12月で、W社と代表者の身分確認をして契約したのが2021年2月、最終的な提供行為までは長く見ても3か月程度しかなかったこと、警察からの業務指導は2021年3月24日の1回にとどまり最終提供行為はその1か月以内だったこと、照会書の受領開始も同年3月頃で、被告人は業務指導への対応をBらに報告して判断を仰いでいたことなどから、故意を認めるに足りないとした原判決の判断が論理則・経験則等に照らして明らかに不合理とはいえないとして、無罪が確定した。
本件は、価値中立的な事業活動(通信サービスの提供)が下流で犯罪に悪用された場合に、提供者にどこまでの認識があれば幇助犯の故意を問えるかという、Winny事件以来の法理が正面から争われた事例である。なお広島では同種のIP電話回線提供をめぐる詐欺幇助の訴追が他にも複数あり、被告人ごとの具体的な認識の程度によって結論が分かれている。本件はそのうち無罪が確定した事件である。
IP電話回線販売・レンタル業を営む東京の会社の代表社員(判決当時38歳の男性)は、2021年3月16日頃から同年4月20日頃までの間、氏名不詳者らにIP電話回線利用サービスを提供した。同年4月19日頃から翌20日頃、氏名不詳者らはこの回線を使って高齢の女性に電話をかけ、民事訴訟を回避するための弁済供託金等を支払う必要があるとの嘘を言って誤信させ、現金200万円を送付させてだまし取った。代表社員は、この詐欺に使われることを知りながら回線を提供して犯行を容易にしたとして、詐欺幇助罪で起訴された。 被告人の会社は氏名不詳者らに直接回線を提供したのではなく、間にW社を挟んでおり、そこから先の利用者を容易に追跡できない形で回線が渡っていた。公判では、被告人が回線提供にあたり、それが詐欺の道具として使われることを認識・認容していたかが争点となった。 2023年3月7日、広島地方裁判所(藤丸貴久裁判官)は無罪を言い渡した。判決は、被告人が詐欺への利用を知りながら提供を続けていたという捜査段階の供述について、裏付けを欠き身柄拘束中の罪悪感等の感情からされた可能性は否定し難いとして信用性を認めず、詐欺の犯人に回線を提供しているとは全く思わなかったとする公判供述の信用性は排斥できないとして、詐欺幇助の故意を有していたとまでは認められないと判断した。 検察官は「原判決は幇助犯の故意が認められる要件の規範定立について法令の解釈適用を誤った」として控訴した。検察側は、最高裁平成23年12月19日決定(Winny事件の最高裁決定)を引用し、価値中立的な行為による幇助犯を成立させるには、正犯行為に利用される一般的・抽象的な可能性の認識・認容では足りず、具体的な社会通念上無視できないような状況とその認識・認容が必要であって、かつそれで足りるとしたものだと主張。そのうえで、会社設立の経緯から被告人が抱いていたはずの疑念、特殊詐欺の社会問題化、警察からの警告や「詐欺」の文言を含む捜査関係事項照会書を度々受けていたこと、報酬が不相当に高額だったことなどを挙げて、故意は優に認められると論じた。 2024年2月13日、広島高等裁判所第1部(森浩史裁判長)は控訴を棄却した。同決定は基本的な解釈を示したうえで具体的な事案に則して判断したものであり、原判決も本件の提供状況等を踏まえて、他人の犯罪を容易ならしめる行為をそれと認識・認容しつつ行ったといえるのはどのような場合かを説示したにすぎないとして、原判決が刑法62条1項について従前と異なる独自の解釈をしているとはいえないとした。事実認定についても、被告人が上司格のBらの指示で業務に関与し始めたのが2020年12月で、W社と代表者の身分確認をして契約したのが2021年2月、最終的な提供行為までは長く見ても3か月程度しかなかったこと、警察からの業務指導は2021年3月24日の1回にとどまり最終提供行為はその1か月以内だったこと、照会書の受領開始も同年3月頃で、被告人は業務指導への対応をBらに報告して判断を仰いでいたことなどから、故意を認めるに足りないとした原判決の判断が論理則・経験則等に照らして明らかに不合理とはいえないとして、無罪が確定した。 本件は、価値中立的な事業活動(通信サービスの提供)が下流で犯罪に悪用された場合に、提供者にどこまでの認識があれば幇助犯の故意を問えるかという、Winny事件以来の法理が正面から争われた事例である。なお広島では同種のIP電話回線提供をめぐる詐欺幇助の訴追が他にも複数あり、被告人ごとの具体的な認識の程度によって結論が分かれている。本件はそのうち無罪が確定した事件である。
- 事件発生
- 2020年
- 被告人
- 匿名(38歳男性、IP電話回線販売会社代表)
- 判決
- 詐欺幇助罪で起訴(2021年、求刑 懲役2年)→ 無罪(2023年3月7日、広島地裁・藤丸貴久裁判官)→ 検察官控訴、控訴棄却(2024年2月13日、広島高裁第1部・森浩史裁判長)→ 無罪確定
- 現在のステータス
- 無罪確定
- 冤罪の原因
- 法令解釈の問題、客観的証拠の欠如
タイムライン
上司格のBらの指示を受けて本件会社の業務に従事し始めた。Bからは、契約の際は身分確認をして警察からの照会には回答する必要があるなど、適正な業務を行う旨の説明も受けていた。
初めての提供先であるW社との間で、代表者の身分確認を行ったうえで契約を締結した。
提供したIP電話回線が特殊詐欺に使われていることを告げられ、契約の見直しやW社への指導、契約者の本人確認の徹底などの業務指導を受けた。被告人はこの対応についてBらに報告し判断を仰いでいた。「詐欺」の文言を含む捜査関係事項照会書の受領も同年3月頃から始まっていた。
氏名不詳者らが、被告人の会社が提供したIP電話回線を利用して高齢女性に電話をかけ、弁済供託金等の名目で現金200万円をだまし取った。回線提供は同年3月16日頃から4月20日頃まで行われていた。
広島地方検察庁が詐欺幇助罪で起訴した(広島地方裁判所令和3年(わ)第444号)。
広島地方裁判所(藤丸貴久裁判官)は、捜査段階の供述は身柄拘束中の感情からされた可能性が否定できず信用できないとし、被告人に詐欺幇助の故意があったとまでは認められないとして無罪を言い渡した。
広島高等裁判所第1部(森浩史裁判長)は、原判決が刑法62条1項について従前と異なる独自の解釈をしているとはいえず、故意を認めるに足りないとした認定判断も論理則・経験則等に照らして明らかに不合理とはいえないとして、検察官の控訴を棄却した。